2020年1月26日日曜日

ベートーヴェン

頻度はだいぶ減ったが、目を瞑っているといつの間にか、頭の中でピアノ演奏を始めているときがある。よく知っている曲を鳴らし、強弱やリズムを試行錯誤して、納得したら次のパートへ進むというのを繰り返しながら、普通に弾き終えるより何倍もの時間をかけてフィナーレに至る。そして安らかな気持ちで眠りに落ちる。

その壇上もこの1年はガラ空きだった。そこに今夜、一つの曲が現れた。ベートーヴェンのピアノソナタ『悲愴』の第1楽章だ。

クラシックを弾く界隈にはあまりに有名で、これについて説明するのは簡単であっても気が引けるのだが、いきなり低い音を叩きつけてからゆっくりと始まる、緊張感に溢れる10分程度の曲である。第2楽章は、メロディを歌うように奏でる曲で、こちらの方が一般的に知られている。

現実には大学4年から弾かなくなったからもう6年、ピアノから離れている。練習の中で500回は通しで弾いたはずだが、今ではどう指を動かせばその音が鳴らせるのか、そもそもどの和音だったかもすっかり忘れてしまった。弾く姿のイメージに欠けた音だけが、様々なバリエーションで流れていた。

ピアノ教室で習ったのは高校生の時だったのだが、大学1,2年でも時々弾いていた。この曲を想像の中で聴いていると、大学の光景や出来事がぼんやり思い出されてくる。

その頃は内情として苦しんでいるときだった。現実逃避を動機に入った大学で同じように現実逃避し、人間関係を築いては壊していた。そういうもどかしさをぶつけるのに、この暗い曲はうってつけだった。

寝床を抜け出して書いていたら落ち着いてきた。今度は第2楽章が流れ出した。もう安心して眠れそうだ。